「SaaS営業って最近よく聞くけど、実際どうなの?」——転職相談で、この質問がここ2年で急激に増えた。正直な話、SaaS業界の営業職は2026年現在、転職市場で最も求人が多いポジションの1つだ。そして、未経験から入れる間口の広さも、他の業界と比べてかなり大きい。
ただし、「未経験歓迎」の文字を鵜呑みにして何も準備せずに飛び込むと、入社後にかなり苦労する。SaaS営業は従来の営業とは仕事の進め方がまったく違うし、カルチャーも独特だ。自分自身、有形商材のルート営業から38歳でSaaS企業のインサイドセールスに転職したとき、最初の3ヶ月は「何が正解かわからない」状態で毎日消耗した。
この記事では、SaaS営業——特にインサイドセールス(IS)への転職を考えている人に向けて、仕事内容、年収、必要なスキル、そして未経験から入るための具体的なルートを書いていく。
SaaS営業とは何か——従来の営業との決定的な違い
「The Model」という分業体制
SaaS企業の営業組織で最も特徴的なのは、「The Model」と呼ばれる分業体制だ。従来の営業が1人で見込み客の発掘から契約、アフターフォローまでやっていたのに対して、SaaSでは以下のように役割が分かれている。
- マーケティング:見込み客(リード)を集める
- インサイドセールス(IS):リードに電話やメールでアプローチして商談を作る
- フィールドセールス(FS):商談を進めてクローズ(契約)する
- カスタマーサクセス(CS):契約後のフォローと継続利用を支援する
未経験からSaaS営業に入る場合、最も門戸が広いのがインサイドセールスだ。理由は明確で、ISは「量をこなしてスキルを身につける」ポジションなので、経験よりも行動量やコミュニケーション能力が重視されるからだ。
年収はどのくらいか
SaaS営業の年収は、ポジションと経験によってかなり幅がある。2026年4月時点での目安を整理しておく。
| ポジション | 未経験入社時の年収 | 経験2〜3年の年収 | 上位層の年収 |
|---|---|---|---|
| インサイドセールス | 350〜450万円 | 450〜600万円 | 600〜750万円 |
| フィールドセールス | 400〜550万円 | 550〜800万円 | 800〜1,200万円 |
| カスタマーサクセス | 350〜450万円 | 450〜650万円 | 650〜900万円 |
| セールスマネージャー | — | 600〜900万円 | 900〜1,500万円 |
注目すべきは、ISからFSにステップアップしたときの年収の伸びしろだ。ISで2〜3年経験を積んでFSに異動すると、年収が150〜200万円上がるケースが珍しくない。これはSaaS業界の構造的な特徴で、FSはインセンティブ(歩合)の比率が高いため、成果を出せば大幅な年収アップが狙える。
ちなみに、自分がルート営業(年収420万円)からSaaSのISに転職したときの初年度年収は380万円だった。一時的に下がったけれど、2年後にFSに異動してからは560万円になった。3年で140万円アップと考えれば、最初の年収ダウンは十分に「投資」と呼べる範囲だと思う。
未経験からSaaS営業に入るために必要なスキル
「営業経験」は最低限あったほうがいい
「未経験歓迎」と書いてあっても、営業経験がゼロだと正直厳しい。ここで言う「未経験」は「SaaS業界が未経験」という意味であって、「営業職自体が未経験」という意味ではないことが多い。
ただし、接客業や販売職の経験があればポテンシャル採用の対象にはなる。BtoCの営業経験でもOKだ。要は「人と話して何かを提案する」仕事をした経験があるかどうかがポイントになる。
求められる3つのスキル
SaaSのインサイドセールスで求められるスキルを、現場の目線で整理するとこうなる。
1. ヒアリング力
ISの仕事は「売ること」ではなく、「相手の課題を聞き出すこと」だ。電話やオンラインで15〜30分の会話をして、相手が何に困っているかを的確に把握する。話す力よりも聞く力のほうが重要。これ、意外と見落とされがちなポイントだ。
2. テキストコミュニケーション力
ISの業務の約40%はメールやチャットでのコミュニケーションだ。電話が苦手でもメールが上手い人は意外と活躍できる。逆に、電話は得意だけどメールが雑な人は、社内外の連携でつまずくことが多い。
3. 数値管理の感覚
SaaS営業は徹底的に数字で管理される。架電数、接続率、商談化率——こうしたKPIを日次・週次で追いかける文化がある。「数字に追われるのが嫌」という人には正直向いていない。逆に、数字で自分の成長が見えることにやりがいを感じる人には天職だ。
未経験からSaaS営業に転職する具体的なルート
ルート1:SaaS特化型のエージェントを使う
SaaS業界への転職に強いエージェントを使うのが、最も効率的なルートだ。一般的な大手エージェントだと、SaaS業界の特性を理解していないキャリアアドバイザーに当たることがある。「インサイドセールスって何ですか?」と聞き返されたことがある、という話を候補者から何度も聞いた。
SaaS特化型のエージェントなら、The Modelの各ポジションの違いを理解した上で求人を紹介してくれるし、面接対策もSaaS企業に特化したアドバイスがもらえる。

ルート2:SaaS企業のカスタマーサポートから入る
ISに直接入れなかった場合、カスタマーサポート(CS対応)からSaaS企業に入り、社内異動でISに移るルートもある。カスタマーサポートはISよりも応募のハードルが低いことが多いし、入社後にプロダクトの知識が身につくので、ISへの異動時にアドバンテージになる。
実際、自分の前職のSaaS企業では、IS部隊の約25%がカスタマーサポートからの社内異動組だった。彼らはプロダクト理解が深いので、商談の質が高い傾向にあった。
ルート3:SaaS関連の資格・スクールで学んでから応募する
最近では、SaaS営業やインサイドセールスに特化したスクールやオンライン講座も増えている。完全未経験で不安がある場合は、こうした講座で基礎知識を身につけてから応募するのも手だ。受講費用は5〜15万円程度のものが多い。
ただ、正直なところ、現場で覚えたほうが早い。スクールで学ぶのはあくまで「面接で話せるネタを作る」ためと割り切ったほうがいい。
SaaS営業の面接で聞かれること
「なぜSaaSか」に答えられるか
面接で必ず聞かれるのが「なぜSaaS業界なのか」だ。ここで「成長産業だから」「年収が上がるから」だけだと弱い。面接官が聞きたいのは、「SaaSの営業スタイルに合う理由」だ。
効果的な答え方の例を挙げると——
「前職では1人で新規開拓から契約後のフォローまでやっていたが、分業体制のほうが各フェーズの専門性が高まると感じた。特に、初期の課題ヒアリングに集中できるISのポジションに魅力を感じている」
こういう答えだと、The Modelの理解があることが伝わるし、ISの仕事内容を理解した上で応募していることがアピールできる。
「数字で成果を語れるか」が合否を分ける
SaaS企業の面接で最も重視されるのは、前職での成果を数字で語れるかどうかだ。「頑張りました」「チームをまとめました」では通用しない。「担当エリアの売上を前年比120%に伸ばした」「新規開拓で月平均8件の新規商談を獲得した」——こういう具体的な数字が必要。
あなたの前職の仕事を、数字に変換できるだろうか?これは面接対策というよりも、転職活動全体を通じて意識しておくべきポイントだ。
SaaS営業に向いている人・向いていない人
向いている人の特徴
- 数字で評価されることにストレスがない
- 新しいツールやテクノロジーへの抵抗がない
- 「なぜこの顧客は買わなかったのか」を考えるのが好き
- チームで成果を出すことにやりがいを感じる
- PDCAを回す文化が好き
向いていない人の特徴
- 「自分のやり方」を重視する
- 数字の管理やレポーティングが苦手
- 対面での関係構築に強いこだわりがある(ISはほぼ非対面)
- 変化のスピードが速い環境が苦手
正直、従来型の営業で「エース」だった人がSaaSに来てうまくいかないケースは珍しくない。飛び込み営業で月50件成約していた猛者が、ISでは全然成果が出なかった——という話を何回も見てきた。営業のスタイルが根本的に違うので、「過去の成功体験」を捨てられるかどうかが分岐点になる。
SaaS業界の将来性——2026年以降はどうなるか
SaaS市場は依然として成長を続けている。矢野経済研究所のデータによると、日本のSaaS市場規模は2025年に約1兆8,000億円で、2028年には約2兆5,000億円に達する見込みだ。市場が伸びている限り、営業職の需要も増え続ける。
特に注目すべきは、これまでSaaSの導入が遅れていた「非IT業界」——製造業、建設業、医療業界——でのSaaS導入が加速していること。こうした業界出身の人がSaaS営業に転職するケースは、業界知識がそのまま武器になるので、実は非常に相性がいい。
製造業で10年働いた人が製造業向けSaaSのISに転職すれば、顧客の課題を誰よりも理解できる。これは「業界経験×SaaS営業」という掛け算の強みだ。
転職活動の進め方——現実的なスケジュール
未経験からSaaS営業への転職を目指す場合、現実的なスケジュールは以下のとおりだ。
1〜2週目:自己分析とSaaS業界のリサーチ。The Modelの各ポジションを理解する
3〜4週目:履歴書・職務経歴書の作成。前職の成果を数字で整理する
5〜8週目:エージェント登録と応募開始。並行してSaaS関連の書籍やPodcastで知識をインプットする
9〜12週目:面接。SaaS企業の面接は3〜4回が一般的(書類→1次→2次→最終)
13〜16週目:内定・条件交渉・退職手続き
合計で3〜4ヶ月が目安だ。現職を続けながら進める場合は、もう少しかかることもある。焦って妥協するよりは、じっくり複数社を比較検討したほうがいい。

まとめ——SaaS営業は「キャリアのリスタート」に最適な選択肢
SaaS営業、特にインサイドセールスは、異業種からの転職者にとって「キャリアのリスタート」に最適なポジションだと、自分は本気で思っている。未経験でも入りやすく、入った後の成長曲線が急で、しかもステップアップの道筋が明確。
ただし、「楽して稼げる」わけではない。数字に追われる毎日は正直きついし、最初の半年は「前職に戻りたい」と思う瞬間もある。それでも、SaaS業界の成長性と、The Modelという仕組みの中でスキルが体系的に身につく環境は、長期的に見て大きなアドバンテージになる。
まずは転職エージェントに相談して、自分のスキルがSaaS業界でどう評価されるか聞いてみることから始めてみてほしい。意外な発見があるかもしれない。




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