「毎日22時まで残業して、家に帰ったら寝るだけ……」
この生活を3年間続けた結果、自分は体を壊した。2023年の冬、ついに心療内科のお世話になった。夜中に何度も目が覚める。休日にベッドから出られない。通勤電車の中で急に動悸がする。あのとき初めて「仕事って、命を削ってまでやるものなのか」と本気で考えた。
そこからワークライフバランスを軸にした転職活動を始めて、今は残業月15時間以下の会社にいる。平日でも18時半には家に着いて、週3回のランニングを楽しめている。2026年4月時点で転職から2年半が経つが、体調は完全に戻った。
この記事では、残業月80時間の地獄から月20時間以下の生活に変わるまでにやったことを、できるだけ具体的に書いていく。
残業月80時間から20時間に転職した話
前職はSIerの中堅どころで、自治体向けのシステム開発をやっていた。入社5年目くらいまでは残業月40時間程度で、それなりにバランスが取れていた。問題は大型案件のPLに抜擢されてからだった。
チームは6人。でも実際に手を動かせるのは自分を含めて3人。納期は動かない。顧客の要件変更は止まらない。結果として、月の残業が80時間を超える生活が1年半続いた。
具体的にどういう生活だったかというと、朝8時半に出社して夜22時〜23時に退社。土曜も月に2回は出勤。日曜は寝ているだけ。友人との予定はすべてキャンセル。趣味のランニングは完全にやめた。体重が半年で8キロ増えた。
厚生労働省が「過労死ライン」としている月80時間をちょうどさまよっていたわけだ。友人に会ったとき「お前、顔色やばいぞ」と言われて、鏡を見たら目の下のクマがひどかった。あれは今でも覚えている。
転職活動は体調を崩して休職している間に始めた。正直、最初は「こんな状態で転職なんてできるのか」と不安しかなかった。でも結果的に3ヶ月で4社から内定をもらえた。残業が少ない会社を狙い撃ちする方法さえ知っていれば、転職活動自体はそこまで難しくない。
転職先は社内SEのポジションで、月の残業は平均15時間。年収は前職から60万円ほど下がったが、正直それ以上に得たものが大きかった。健康、時間、人間関係。お金では買えないものが全部戻ってきた。
ワークライフバランスが崩れるとどうなるか
自分の経験を書いたが、もう少し一般的な話もしておく。
残業が常態化すると、最初に壊れるのは睡眠だ。自分の場合、夜中に3回は目が覚めるようになった。朝起きても疲れが抜けない。でも仕事は待ってくれないから、カフェインでごまかして出社する。この悪循環が数ヶ月続くと、体がおかしくなる。
次に来るのがメンタルの不調。自分は「仕事が楽しくない」どころか「何も楽しくない」という状態になった。好きだったランニングにも音楽にも興味がなくなる。休日に何もする気が起きない。これはかなり危険なサインだった。
よくある勘違いは、「若いうちは多少無理しても大丈夫」というもの。実際にはそんなことはない。自分は当時37歳で、体力には自信があった。でも1年半の過重労働であっさり壊れた。体力と耐久力は別物だということを、身をもって知った。
業界別ワークライフバランス比較表
転職活動中に自分が調べたデータと、転職エージェントから聞いた情報、OpenWorkの口コミを総合して、業界・職種別の残業時間をまとめた。あくまで自分の調査範囲での数字なので、全企業に当てはまるわけではないことは断っておく。
| 業界・職種 | 月平均残業時間 | 年収レンジ(30代) | 有給消化率 | リモート可否 | 総合WLB評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 社内SE(事業会社) | 12〜18時間 | 400〜600万円 | 70〜80% | 週2〜3日可が多い | ★★★★★ |
| Web系自社開発 | 15〜25時間 | 450〜700万円 | 65〜75% | フルリモート可も多い | ★★★★☆ |
| 地方自治体向けBtoB | 10〜20時間 | 350〜500万円 | 75〜85% | 出社中心 | ★★★★☆ |
| メーカー系SE | 20〜30時間 | 400〜600万円 | 60〜70% | 部署による | ★★★☆☆ |
| SIer(大手) | 25〜45時間 | 450〜700万円 | 50〜65% | 案件による | ★★★☆☆ |
| SES | 20〜50時間 | 300〜500万円 | 40〜60% | 常駐先による | ★★☆☆☆ |
| コンサルティング | 40〜70時間 | 600〜1,200万円 | 30〜50% | 案件による | ★★☆☆☆ |
| 広告代理店 | 35〜60時間 | 400〜800万円 | 35〜55% | 会社による | ★★☆☆☆ |
この表を見ると、年収とワークライフバランスはある程度トレードオフの関係にあることがわかる。コンサルは年収が高いが残業も多い。社内SEは年収レンジが控えめだが、生活の安定感は抜群だ。
ただ、実際にはこの表が全てではない。同じ「社内SE」でも、従業員500人の事業会社と5万人のメガ企業では仕事の中身がまるで違う。自分の場合は従業員2,000人規模のメーカーの社内SEに転職したが、正直「こんなにホワイトでいいのか」と最初は戸惑ったくらいだった。
残業月20時間以下の仕事を見つける具体的な方法
転職サイトで「残業少なめ」と検索しても、正直あてにならないケースが多い。「残業少なめ」の定義が企業によってバラバラだからだ。月20時間で「少なめ」と言う会社もあれば、月40時間で「うちは少ないほう」と言う会社もある。
自分が実際にやった方法を3つ紹介する。
1. OpenWorkの残業時間データを必ず確認する
口コミサイトで実際の残業時間をチェックするのが一番リアルだった。候補にした企業15社をすべてOpenWorkで調べて、平均残業時間が20時間を超えている会社は候補から外した。
ポイントは、直近1年以内の口コミだけを見ること。3年前の口コミは参考にならない。働き方改革でガラッと変わっている会社もあるし、逆に業績悪化でむしろ忙しくなっている会社もある。
2. 面接でごまかしにくい質問をする
「残業は月どのくらいですか?」と聞くと、たいてい「平均20時間くらいです」みたいな無難な答えが返ってくる。これでは何もわからない。
自分が使った質問は「先月、配属予定のチームで一番遅くまで残っていた方は何時ごろ退社されましたか?」というもの。これだと具体的な時刻を答えざるを得ないので、ごまかしにくい。面接官が「えーっと……」と詰まったら、それは残業が多い可能性が高い。
もう一つ有効だったのが「繁忙期はいつですか? その時期の残業時間はどのくらい増えますか?」という質問。平均残業時間が20時間でも、繁忙期に60時間になるなら実態はかなり厳しい。
3. 転職エージェントに内部情報を聞く
エージェントは企業の内部事情を知っている。自分の担当者は「この会社、求人票には残業20時間って書いてますけど、実態は40時間近いですよ」と教えてくれた。正直すぎるエージェントに当たったのは運が良かった。
ただ、エージェントにも当たり外れがある。入社を決めさせることがエージェントの収益になるので、都合の悪い情報を隠す人もいる。自分は3社のエージェントを並行して使って、情報をクロスチェックしていた。
求人票の「残業少なめ」を見抜く方法
ここはかなり実践的な話をする。求人票に書かれている情報から、本当に残業が少ない会社かどうかを見抜くポイントをまとめた。
「残業月20時間程度」と「残業月20時間以内」は違う
「程度」と書いてある場合、実態は25〜35時間のことが多い。「以内」と書いてある会社のほうがまだ信頼できる。ただし「以内」でも月19時間と書けるので過信は禁物。実際に自分が転職活動中に見た求人で、「残業月20時間程度」と書いてあった会社をOpenWorkで調べたら平均38時間だった、というケースがあった。
「みなし残業(固定残業代)」の金額を計算する
求人票に「月給30万円(みなし残業45時間分含む)」と書いてあったら、それは「月45時間は残業させますよ」という意味だと思っていい。みなし残業の時間が40時間以上の求人は、ワークライフバランスを求めるなら避けたほうが無難だ。
逆にみなし残業が20時間以内、あるいはみなし残業制度自体がない会社は、残業を前提としていない可能性が高い。自分の今の会社はみなし残業なしで、実際に残業は月15時間程度に収まっている。
「裁量労働制」には注意
裁量労働制は「自分のペースで働ける」という聞こえのいい制度だが、実際には残業代が出ない仕組みとして使われているケースがある。特にコンサル業界やIT業界の一部企業で多い。裁量労働制の求人を見たら、OpenWorkで実際の労働時間を必ず確認してほしい。
「年間休日」の数字を見る
年間休日120日以上なら、基本的に土日祝が休みの会社。115日だと、たまに土曜出勤がある可能性。110日以下は、隔週土曜出勤や祝日出勤の可能性が高い。ワークライフバランスを重視するなら、年間休日120日以上は最低ラインだと思っている。
「アットホームな職場」はフラグ
これは有名な話だが、求人票に「アットホームな職場です」「社員同士の仲が良い」と書いてある会社は、実態として「プライベートと仕事の境界が曖昧」であることが多い。飲み会が多い、休日にLINEグループで連絡が来る、といった話をエージェントから聞いたことがある。もちろん全部がそうではないけれど、他にアピールポイントがないから「アットホーム」を持ち出している可能性は考えたほうがいい。
転職後にワークライフバランスを維持するコツ
転職しても、自分の働き方を変えないと意味がない。環境が変わっても、以前と同じように仕事を引き受けまくっていたら、結局同じことの繰り返しになる。
自分が意識しているのは以下の3つだ。
退社時間を朝の段階で決める。
「今日は18時に帰る」と朝の時点で決めてしまう。これだけで仕事の組み立て方が変わる。18時までに終わらせるには何を優先するか、逆に何を明日に回すか。締め切りがあると人間は集中する。退社時間も一種の締め切りだ。
タスクの優先順位を明確にする。
全部やろうとするから残業になる。正直、業務の中には「今日やらなくても誰も困らない」ものが2〜3割はある。それを見極めて「明日でいい」と判断する勇気が必要だ。自分は毎朝、タスクを「今日やるべき」「今週中でいい」「来週以降」の3つに分けている。
「NO」を言えるようになる。
これが一番難しかったけど、一番大事だった。上司に「この仕事、明日でもいいですか?」と言えるようになってから、劇的に残業が減った。最初は勇気がいるが、やってみると意外と「いいよ」と言ってもらえる。むしろ「こいつは自分の時間を管理できる人間だ」と評価が上がることもある。
前職では「頼まれた仕事は全部受ける」のが美徳だと思っていた。でも実際には、全部受けた結果として品質が下がり、納期も守れず、体も壊した。あれは美徳ではなくて単なる自己犠牲だった。
年収は下がるのか? 正直な話
ワークライフバランスを重視した転職をすると年収が下がるのか。これは正直に書くと、自分の場合は下がった。前職の年収が520万円で、転職後は460万円。約60万円のダウンだ。
ただ、残業代込みの520万円と、ほぼ残業なしの460万円を時給換算すると、実は転職後のほうが時給は高い。前職は月80時間の残業があったから、実質の労働時間が月250時間以上。転職後は月175時間程度。時給で計算すると前職が約1,733円、転職後が約2,190円。
この計算をしたとき、「なんだ、前の会社は実質の時給が低かっただけじゃないか」と気づいた。年収の額面だけで比べると損した気分になるが、時間あたりの対価で考えると見え方が変わる。
もちろん、年収を維持したままワークライフバランスを改善できるのが理想だ。Web系自社開発やメーカー系の社内SEなら、残業少なめで500〜600万円のレンジもある。自分の場合は早く転職したかったので年収ダウンを許容したが、時間をかけて探せばもっと条件の良い求人はあったかもしれない。
まとめ
ワークライフバランスを改善する転職は、甘えではないと思っている。健康な状態で長く働き続けるための合理的な選択だ。
自分は残業月80時間の生活で体を壊して、そこから残業月15時間の会社に転職した。年収は60万円下がったが、健康と時間と人間関係が戻ってきた。正直、あのまま前の会社にいたら今ごろどうなっていたか考えると怖い。
大事なのは、求人票の文言を鵜呑みにしないこと。OpenWorkで実態を調べる、面接で具体的な数字を聞く、エージェントに内部情報を確認する。この3つをやるだけで、「入ってみたら全然違った」というリスクはかなり減る。
そして転職後も、自分の働き方を意識的にコントロールしていくこと。環境を変えただけでは不十分で、自分自身の仕事との向き合い方を変えることが、結局一番重要だと実感している。





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